電気自動車の識別表示義務化の概要
国土交通省は、2025年1月10日に外観から電気自動車(EV)であることが分かる表示(EVラベル)を一定の自動車に義務化する道路運送車両法の保安基準の改正をプレス・リリースしました。(参考:国土交通省報道発表資料)
EVラベルが義務付けられる自動車
電気自動車であることの識別表示が義務付けられる自動車と表示する場所は以下の通りです。
・バス:前後左右の4か所
・トラック(車両総重量が3.5t超):前面と左右の3か所
・その他のEV:表示義務なし
(識別表示の画像:国土交通省報道資料より抜粋)
EVラベルの義務化はいつから?
新型車:は2026年9月1日から適用。
継続生産車:については2027年9月1日から適用。
EVラベル義務化の背景
電気自動車の増加と温暖化対策
日本政府は2050年カーボンニュートラルに向けて2030年までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減する目標を掲げています。
この目標達成のため、2021年10月22日「地球温暖化対策計画」が閣議決定されました。(出展:環境省「地球温暖化対策計画」)
「地球温暖化対策計画」策定までの時系列はこちら
この中で、運輸部門の対策の一つとして、電気自動車を含む次世代自動車を普及することで、温室効果ガスを削減することが定められています。
具体的には、2030年までに新車販売台数における次世代自動車の割合を、全体の50%~70%にするという目標が設定されています。(出展:環境省「地球温暖化対策計画における対策の削減量の根拠」)
そのため、税制優遇や助成金など経済的支援策も導入されており、電気自動車の普及が加速しています。
これにより、電気自動車が関与する交通事故の可能性が高まっています。
通常のディーゼル車やガソリン車の交通事故と違って、電気自動車には電気自動車特有の消防・救助作業が必要とされています。
そこで、外観から電気自動車であることが分かるようEVラベルを表示することになりました。
電気自動車の交通事故の特徴
一般に可燃性の燃料が漏れ出る可能性があるディーゼル車やガソリン車に比べ、電気自動車は可燃性の燃料を積んでいないため漏れ出た燃料に引火して起きる火災のリスクはありません。(ハイブリット車を除く)
また、事故を感知すると自動で高電圧回路は遮断され、感電の危険性を抑える仕組みとなっています。
しかしながら、通常のディーゼル車やガソリン車の交通事故と違って、電気自動車特有の危険性もあります。
多くの電気自動車に搭載されているリチウムイオンバッテリーには、熱暴走1による火災の危険性があります。
液体が漏れ出ていたり、バッテリー付近から煙が上がっている状況の場合は、バッテリーが損傷している可能性があり注意が必要です。
燃えているバッテリーからは有毒ガスの発生の危険性があるので安全な距離を保つ必要があります。
高電圧システムが停止した後も数分間は電圧を維持しているため、感電の危険性も全くないわけではありません。(参考:総務省消防庁「次世代自動車事故等における消防機関の活動要領」)
救助活動の際に車体の一部を切断したり、オレンジ色の高電圧のケーブル類の取り扱いは専門に訓練を受けた消防隊に任せるべきです。
このような電気自動車特有の危険性に巻き込まれることがないよう注意を促すため、自動車の外見から、電気自動車であることを認識できるようにEVラベルが作成されました。(参考:ISO 17840-4:2018に準拠)
交通事故に遭遇した場合に、電気自動車の識別表示を発見したら、二次被害を防止するためにも通報の際にそのことを伝え、救助方法等の指示を受けましょう。
まとめ
実務家としての役割と責任
地球温暖化防止は全世界的な喫緊の課題です。
温暖化ガスの排出削減に向けた取り組みは今後さらに強化されるでしょう。
運輸部門に関するものだけでも以下のような対策があります。
・次世代自動車の普及促進及び燃費改善等
・道路交通流対策
・公共交通機関及び自転車の利用促進
・環境に配慮した自動車使用等の促進による自動車運送事業等のグリーン化
・トラック輸送の効率化、共同輸配送の推進
・海上輸送及び鉄道貨物輸送へのモーダルシフト2の推進
・物流施設の脱炭素化の推進
それぞれの対策にに具体的な温暖化ガスの削減量の数値目標が設定されています。
その目標を達成するため、様々な法制度が整備されていくことになります。
自動車の生産者やユーザーなどの直接のステークホルダーだけでなく、行政に対する手続きを支援する実務家の我々も、社会環境が変化することで新たに生じる制度や行政上の手続きに対応していくが必要があります。
制度の背景を知り、業務に真摯に取り組むことが、世界の温暖化防止につながっていると考えると、業務に取り組む姿勢も引き締まる思いです。
地球温暖化対策計画策定までの時系列(参考)
1992年国連気候変動枠組条約の採択
全世界で初めての地球温暖化に対する枠組みを決めた条約です。
1994年国連気候変動枠組条約が発効
削減目標は今後の気候変動枠組条約締約国会議(COP)で決定することになりました。
1997年(COP3)で京都議定書の採択
160か国が参加国として具体的な削減目標を初めて採択しました。
アメリカ、EU、日本などの主要先進国に削減目標が設定されました。(のちにアメリカは脱退)
日本の目標は2008年から2012年の間に温室効果ガスを1990年比で約6%削減が目標でした。
2005年京都議定書が発効
京都議定書目標達成計画を閣議決定しました。
日本は2005年~2012年度までの第一次拘束期間の6%削減目標を達成しました。
2013年~2020年の第2次拘束期間には発展途上国に削減目標を義務付けないことを不服とし不参加を決定しました。
2010年になっても第2次拘束期間の目標設定は難航、新たな枠組みを作るための交渉プロセスが開始されました。
2015年パリ協定(COP21)が採択
京都議定書の後を受けた新たな削減目標が世界約200か国が合意して成立しました。
世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することが目的です。
参加各国は削減目標を5年ごとに提出・更新すること、また更新の際には、目標を深掘りすることをルールとして定めました。
2016年パリ協定が発効
締約国数55か国及びその排出量が世界全体の55%を越えるとの発効要件を満たしました。
同年日本も批准しました。
2021年地球温暖化対策計画を閣議決定
2020年京都議定書の第2次拘束期間が終了し、パリ協定の枠組みが本格的に開始されました。
2050年カーボンニュートラルと2030年度46%削減目標の実現を宣言しました。
参考:環境省「地球温暖化対策計画」