
自動車保管場所標章制度が始まった背景と廃止の理由
普通車5を登録する際に必要となる車庫証明は、自動車の車庫6を管轄する警察署で交付されます。7
車庫証明は適切な車庫を確保していることを証明する書類です。 保管場所標章は車庫証明または車庫届出の手続きを行った場合に交付されます。
交付された保管場所標章は、自動車に貼り付けなければなりません。9
保管場所標章を自動車に貼り付けられていることで、警察官や交通巡査員が取り締まりの際に、その自動車が車庫を確保しているか外見からわかるようになっています。
自動車ユーザーに車庫の確保を促すために、30年以上前の平成2年に始まった制度です。
当時は、普通車の登録には車庫証明が必要でしたが、登録の後に車庫を変更した場合の手続きは定められていませんでした。
軽自動車にいたっては、そもそも車庫を届出する必要もなく、路上に駐車する軽自動車が多く存在したのです。
そのため、住宅地や繁華街などで路上駐車があふれかえり、自動車の陰から飛び出した歩行者との交通事故が多発したり、緊急車両の通行の障害なったり、違法駐車が大きな社会問題となっていました。
このような状況を改善するため、平成2年7月3日に保管場所標章制度の新設や軽自動車の車庫届出、保管場所変更時の届出の義務化、罰則の強化などの法改正が行われました。10
これらの改正を経て、自動車ユーザーに保管場所を確保しなければならないという意識が浸透していきました。
結果、平成2年当時に3万4985件もあった違反の件数は、30余年の月日を経て令和4年には943件にまで減少しています。10
加えて、昨今では自動車の保管場所の情報もデジタル化され、自動車のナンバープレートから、警察官や交通巡査員がデータベースにアクセスし照会できるようになりました。
そのため、自動車ユーザーへの啓発や、取り締まりに保管場所標章を用いる必要性が低くなってきており、保管場所標章制度は廃止されることとなりました。
保管場所標章廃止の影響【メリット・デメリット】
メリット
・車庫証明の費用が安くなります。
・OSS申請がさらに便利になります。
・ステッカーの貼り付け取り外しの手間がなくなります。
・申請から交付までの日数が短縮される可能性があります。
デメリット
・軽自動車の届出違反の罰則が強化されます。
・登録後に自動車の保管場所の位置が確認できなくなります。
・申請手数料の値上げが予定されている警察署があります。
車庫証明の費用が安くなります。【メリット】
保管場所標章が廃止される令和7年4月1日以降は、保管場所標章の交付手数料がなくなる分、費用が安くなります。
廃止前の車庫証明にかかる費用
車庫証明申請手数料 2,000円~2,300円程度
保管場所標章交付手数料 500円~600円程度
廃止後の車庫証明にかかる費用
車庫証明申請手数料 2,000円~2,500円程度
保管場所標章交付手数料 無料
OSS申請がさらに便利になります。【メリット】
自動車の登録手続をインターネットから行うOSS申請11に限定されますが、保管場所標章制度の廃止後は警察署に出向く必要がなくなります。
これまでは、たとえOSS申請であっても、保管場所標章の受取に1度は管轄の警察署に出向くか、返信用のレターパックを管轄の警察署に送って返送してもらう必要がありました。
自動車登録についての手間が大きく減ることになります。
シールを自動車に貼り付ける必要がなくなります。【メリット】
保管場所標章の制度そのものが廃止されるため、自動車に表示する義務もなくなります。
シールを窓ガラスに貼り付ける必要がなくなり、自動車の外観がすっきりします。
また、車庫を変えるたびに貼り替える手間もなくなります。
申請から交付までの日数が短縮される可能性があります。【メリット】
保管場所標章制度の廃止前までは保管場所標章の交付申請と車庫証明申請とは同時に受理されます。
その場合の車庫証明手続の流れは、次の通りです。
- 1、保管場所標章の交付申請は車庫証明申請と同時に受理されます。
- 2、車庫証明の手数料が納付され、内容の審査が始まり、交付が決済されます。
- 3、その後、保管場所標章番号交付申請の手数料が納付され、保管場所標章番号が割り振られます。
- 4、最終的に、車庫証明書と保管場所標章番号通知書、保管場所標章が同時に交付されます。
令和7年4月1日以降は、上記3の手続きが一つ減ることで、管轄の警察署によっては車庫証明の申請から交付までの日数が短縮される可能性があります。
申請から交付までの日数については、事前に管轄の警察署にご確認ください。
軽自動車の届出違反の罰則対象が一部拡大されます。【デメリット】
軽自動車は、車庫届出義務のない地域から車庫届出義務のある地域へ使用の本拠の位置を変更した場合に、車庫届出を行う必要があります。12
これを怠った場合は10万円以下の罰金が規定されています。13
法律の改正前までは、この場合の届出義務違反に対する罰則に両罰規定14はありませんでした。15
保管場所標章制度が廃止されることで、これまで以上に確実な届出をしてもらう必要があるため、上記違反行為についても、両罰規定の対象となりました。
自動車の保管場所の位置の確認が困難になる場合があります。【デメリット】
お車の電子車検証のICタグには、ご住所や自動車の使用の本拠の位置などの情報が格納されており、電子車検証閲覧アプリでいつでも確認可能です。
(電子車検証及び電子車検証閲覧アプリについては国土交通省「電子車検証特設サイト」を参照ください)
また、登録の際に交付される「自動車検査証記載事項」には、ご住所や自動車の使用の本拠の位置が記載されています。
しかしながらこれらの資料には自動車の保管場所の位置は記載されていません。
制度の廃止前は保管所標章が交付されるときに、保管場所標章番号通知書が同時に渡されていました。
自動車ユーザーはこの保管場所標章番号通知書をみることで、警察署に申請した車庫の場所をいつでも確認することができます。
ところが、制度廃止後はこの保管場所標章番号通知書が交付されないので、後日、車庫の位置を確認することが難しくなります。
別の敷地などに車庫の位置を変えた場合などに、うっかり変更届出を忘れてしまい、いつのまにか法律違反となってしまいかねません。
都道府県によっては、制度の廃止に合わせた新しい申請書や届出書の様式を配るにあたって、控えページを加える対応をする地域もあるようです。
お手続きの前に、新しい様式について管轄の警察署に確認しましょう。
控えがもらえない場合は、車庫証明書や届出書のコピーを取っておくと安心です。
車庫証明申請手数料が数百円程度値上げされる可能性があります。【デメリット】
保管場所標章交付申請手数料がかからなくなる代わりに、車庫証明申請手数料を値上げする都道府県があります。
例えば東京都の場合は次のように変更となります。
普通車の車庫証明申請
車庫証明申請手数料 2,100円
保管場所標章交付手数料 500円
軽自動車の車庫届出、保管場所の変更届
保管場所標章交付手数料 500円
普通車の車庫証明申請
車庫証明申請手数料 2,400円(OSS申請の場合は2,300円)
保管場所標章交付手数料 なし
軽自動車の車庫届出、保管場所の変更届
保管場所標章交付手数料 なし
宮崎県の場合、車庫証明申請手数料は2,200円のまま据え置きです。
お手続きの前に管轄の警察署に確認しましょう。
保管場所標章制度廃止後の手続上の注意点
警察署窓口申請とOSS申請(インターネット申請)との取扱いの違いについて
警察署窓口に紙の申請書をもって申請する場合も、OSS申請の場合も、令和7年4月1日より前に車庫証明が交付される場合(OSS申請の場合は車庫証明通知)は、保管場所標章手数料を支払う必要があります。
警察署窓口に紙の申請書をもって申請する場合で、交付日が令和7年4月1日以降の場合は、申請日が令和7年4月1日より前であっても保管場所標章手数料を支払う必要はありません。
OSS申請の場合は、令和7年4月1日以前に審査が始まる申請の場合には、車庫証明通知が令和7年4月1日以降であっても保管場所標章手数料の納付が必要となります。
今後、使うことのない保管場所標章の手数料を支払うことがないよう、手続きに日数的な余裕がある場合は、令和7年4月1日以降に申請することをお勧めいたします。
まとめ
保管場所標章の制度廃止により、OSS申請であれば警察署へ出向く必要がなくなります。
業務として自動車登録に携わる行政書士事務所等の手続き代行者にとっては、業務負担が軽減される分、顧客サービスの充実にリソースを割くことができるようになります。
警察署の窓口にとっても、来訪者の対応の負担が減り、働き方改革にも効果がある法律改正といえます。
手続きが簡素になることは、自動車ユーザーにとって歓迎すべき制度改正です。
また、様々なモノやサービスの値上げが続くこのご時世に、手続に係る費用が値下げされることもありがたいことですね。
ただし、車庫証明の制度そのものや軽自動車の車庫の届出、保管場所の変更届出の義務がなくなるわけではありません。
安全でスムーズな交通環境を維持するためにも、自動車の車庫を確保することは、私たち自動車ユーザーの義務です。
忘れずに手続きを行いましょう。
余談ですが・・・
保管場所標章の制度廃止から、5年以内に今回の法改正の事後評価が予定されています。
制度が変わったことで、道路交通環境に悪い影響がないか確認するためです。
その際の指標には虚偽申請等による検挙件数が用いられます。16
車庫証明や車庫届出の虚偽申請等に対しては、規制当局による厳しい目が向けられることとなるでしょう。
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律第6条に規定する保管場所標章 ↩︎
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律第4条第1項の自動車保管場所証明書 ↩︎
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律第5条第1項の自動車保管場所届出 ↩︎
- 令和7年4月1日の施行日以降は自動車に表示する義務は無くなります。 ↩︎
- このページでは道路運送車両法第3条に規定する自動車の種別のうち普通自動車、小型自動車(二輪を除く)、大型特殊自動車を総称して「普通車」と表現しています。 ↩︎
- この記事内では自動車の保管場所の確保等に関する法律第2条第3号に規定する保管場所を「車庫」と表現しています。 ↩︎
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律施行規則第1条第1項 ↩︎
- 改正前自動車の保管場所の確保等に関する法律第6条第2項 ↩︎
- 第118回国会 衆議院 交通安全対策特別委員会 第4号 平成2年6月8日議事録参照 ↩︎
- 令和6年2月国家公安委員会・警察庁 規制の事前評価書(要旨)参照 ↩︎
- このページでは自動車保有関係手続のワンストップサービスを「OSS」と表現しています。 ↩︎
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律附則第7号 ↩︎
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律附則第9号 ↩︎
- 法人の代表者等が違反行為を行った場合に違反者本人に加えて法人にも刑罰を科すこと ↩︎
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律第5条の軽自動車の保管場所の届出の規定に違反した場合には両罰規定があります。 ↩︎
- 令和6年2月国家公安委員・警察庁 規制の事前評価書(要旨)参照 ↩︎