令和6年10月1日に貨物軽自動車運送事業の安全対策を強化するための自動車事故報告規則等の一部を改正する省令等が公布されました。
令和7年4月1日より施行予定となっております。
貨物軽自動車運送事業とは
私たち市民の普段使いの足として、新車販売台数における軽自動車の割合は年々増加傾向にあります。今や、販売される新車のうち10台に4台は軽自動車という状況です。
街中でよく見かける軽自動車のナンバープレートは黄色地に黒字で番号が書かれています。では、黒地に黄色字のナンバープレートをつけた軽自動車はご存じでしょうか。
これは事業用の軽自動車がつけるナンバープレートです。
このナンバープレートを付けた軽自動車が、有償で「物」を運ぶ貨物軽自動車か、「人」を乗せるタクシーであることが分かります。
このうち軽自動車が有料で「物」を運ぶ営業の事を「貨物軽自動車運送事業」といいます。
ちなみに、軽自動車でタクシー営業を行うには、一般旅客自動車運送事業の営業許可を取得したうえでEV軽自動車か介護タクシー用構造を備えた軽自動車を使用する必要があります。
事業用の軽自動車が増えている背景とは
一般のトラックが有償で「物」を運ぶ貨物自動車運送事業は、営業許可を受けるために一定の設備や資金の裏付けが求められるに比べて、貨物軽自動車運送事業は、簡易な届出手続きだけで始められます。
企業に比べて資金力に乏しい個人事業主であっても比較的簡単に始めやすい事業といえます。
2010年代、EC市場の拡大により宅配便の取扱個数が増加してきました。また、某大手宅配事業者等がラストワンマイルの宅配業務を個人事業主へ委託するようになりました。
さらには、コロナウィルス感染症が流行し始めると、宅配の数量はさらに増加したのですが、需要の急激な増加に対してラストワンマイルの宅配の担い手不足が顕著になってきました。そのような状況を緩和するため、貨物タイプに比べさらに低コストで事業参入が可能な最大積載量の記載のない乗用タイプの軽自動車も事業用として使用できるよう2022年10月27日から軽乗用車での貨物運送事業を可能にする規制緩和も実施されました。
このような社会情勢の中、貨物タイプの事業用軽自動車は、平成28年3月の219,394台から令和4年3月には301,526台と増加していきました。さらに乗用タイプの事業用軽貨物自動車も規制緩和された令和4年3月末日に3,269台ほどであった事業用の軽乗用車(この時は旅客軽自動車のみが存在しており、乗用タイプの貨物軽自動車は存在していません)が、令和6年3月末には15,629台となっているように急激に数を増加しています。
なぜ安全対策強化が必要なのでしょうか?
宅配数量の増加という社会情勢やラストワンマイルの担い手不足の解消のための規制緩和によって事業者が増加した結果、平成28年から令和4年にかけて事業用軽自動車の1万台当たりの死亡・重傷事故件数が5割増加してしまいました。
この状況を受けて、国土交通省は貨物軽自動車運送事業における安全対策を強化するための省令改正を行いました。
新制度の概要
一般のトラック並みに規制が強化される新制度の具体的な内容は以下の通りです。
- 各営業所に安全管理者を選任し講習を受講したうえで運輸支局に届出書を提出することが義務付けられます。
- 毎日の業務記録を作成し、1年間保存することが義務付けられます。
- 事故発生時の記録を作成し、3年間保存することが義務付けられます。
- 一定規模以上の事故について運輸支局への報告書の提出が必要です。
- 事故を起こした運転者や高齢の運転者、初任運転者などの特定の運転者に対する特別な指導と適性診断が義務付けられます。同時に運転者台帳も整備する必要があります。
なお、既存の貨物軽自動車運送事業者に対する規制については、以下の猶予期間が設けられています。
・貨物軽自動車安全管理者の選任については施行後2年
・特定の運転者への特別な指導及び適性診断の受診については施行後3年
まとめ
宅配需要が増加するに従い小口配送や都市部での配送など、軽乗用車の方が適している場面が増えてきました。
また、個人が小資本で比較的簡単に参入できる貨物軽自動車運送事業は、少子高齢化社会が慢性的に抱える担い手不足の問題の解決策としての役割も期待されています。
さらに、住宅街や都市部での宅配など生活の場に近い場所を活動の中心とする貨物軽自動車運送事業は、安全対策を強化することでラストワンマイルの主役を担う産業へと成長することが期待されています。
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